ポインセチアの謎
シンガポールに来てから、ずっと疑問に思っていたことがありました。
シンガポールの街路樹や公園の樹木にポインセチアが全く使われていないのは何故?
沖縄にいた友達が、沖縄ではポインセチアが外でいっぱい咲いていてきれいだったとか聞いたことがあります。原産地メキシコでは、5~6mもの低木になり、クリスマスシーズンには木が赤く染まっていって、とっても美しいとのこと。日本にいたときに、ポインセチアは南国ではきっとすごくいい造園材料になるのだろうと思っていたのに、シンガポールでは全くといって見かけません。
シンガポールはクリーン&グリーンシティを作り出すために、世界中の熱帯・亜熱帯から8000種にも及ぶ植物を集め、この地で育つ植物を研究し、選抜して、この国の緑化をはかってきたそうです。そのため、私達が街中で見る植物のじつに8割はネイティブではなく、外来種で占められています。
丈夫で美しいポインセチア、どうしてシンガポールでは全然、植えられていないんでしょう?(もちろんクリスマスシーズンの鉢植えはいっぱい出回りますよ。)ものすごく不思議でした。ポインセチアが使えない理由が絶対になにかあるはず。
TOMなりに考えていたのは、ポインセチアは短日植物だから、夜昼の長さがあまり変わらないシンガポールでは、つぼみをつけることができないのでは?という理由。
でもサンダカン(ボルネオ島)に行った友人の話ではサンダカンではたくさん植えられていて、赤い色がきれいだったよとのこと。
サンダカンとシンガポール、そんなに違うのか?
気になったら調べてみるのがTOM。
シンガポールの夜の時間。一番短い時で11時間48分。一番長いときで11時間58分。その差たったの10分。
サンダカンの夜の時間。一番短い時で11時間33分。一番長いときで12時間13分。その差46分。
サンダカンは北緯5度54分。シンガポールは北緯1度22分。気候もそんなに違うとは思っていなかったけど、お日様の出ている時間にはけっこうの差があったのですね。
ちなみにポインセチアの原産地メキシコでは、北部のGuaymasでの夜の時間は、10時間5分~13時間38分(差3時間33分)、南部のSalina Cruzでの夜の時間は、10時間55分~12時間50分(差2時間5分)。
ポインセチアのつぼみは夜の長さが11時間30分よりも長くなると作られるのだそうです。
ん?シンガポールはずーっと1年中11時間30分以上の夜の長さがあるぞ? ってことは、短日植物ってことと、シンガポールにポインセチアが植えられていることは関係がない???
ということで、調べれば調べるほどわからなくなる、ポインセチアの謎なのでした。
ところで。ここまでいっぱい「夜の長さ」という表現をしました。これに注目をしたのは「つぼみたちの生涯」という本を読んだからです。この本には、植物がつぼみをつける原因と、つぼみが実際に植物につき、開花するまでの不思議の謎解きがされていて、面白いです。
TOMは単純に短日植物(昼が短くなるとつぼみをつける植物)とか長日植物(昼が長くなるとつぼみをつける植物)という言葉で覚えていたのですが、その定義がはっきりできてスッキリもしました。
植物がつぼみをつけるきっかけとして昼夜の長さが関係する場合、大切なのは「夜の時間」だということがこの本には書いてありました。以下、ポイントだけまとめて。
・植物は夜の長さを葉で計っていて、15分の差も正確に知ることができる。 (すごい!)
・つぼみをつけるのには「ある一定の長さの暗黒の闇の時間」が必要。この闇を照明をつけたりして中断すると、暗闇の効果は消えてしまう。
・短日植物は限界暗期以上の暗闇を感じるとつぼみをつけるもの。長日植物は限界暗期以下の暗闇を感じるとつぼみをつけるもののことを言う。限界暗期とは「つぼみが生まれるか生まれないかのギリギリの境目の暗闇の長さ」のこと。
上記のTOMのまとめを一読してわからない方は是非、本をお読みください。わかりやすく書いてあって面白いです。
で。ポインセチアに戻ります。
メキシコの気候も調べてみました。メキシコは北部のGuaymasでも1年の気温は20℃~30℃。植物が花を咲かせるのは、植物にとって都合の悪い季節を種で越したいからのはずですが、気温だけを見ると、寒さをこらえるために種を作るとは考えにくいなあーと思っていたら、ありました。
種を作りたがる原因。降水量。たぶんコレだ。
1月~6月くらいに、ほとんど雨がない時期があるのです。たぶんこの時期を種で過ごしたいのでしょう。
で、ポインセチアちゃんはクリスマスシーズンに花をつけたいわけだ。で、それまでに花を咲かせるために、夜の長さが11時間30分を越えると「せーの!」でつぼみをつける習性を持つようになったんだろうなとTOMは予測しています。
ちなみに2006年に「夜の時間」が11時間30分を越えるのはGuaymasで9月8日、 Salina Cruzで8月27日でした。つまり8月後半から9月の頭にかけて、つぼみをいっせいに作り始めて、来るべき乾季に備えるというわけ。
日本でポインセチアをクリスマスシーズンに咲かせたい場合は、この習性を利用して、8月後半から夜の長さを確保するためにポインセチアの鉢植えにダンボールをかぶせたりしてつぼみをつけさせます。コレは常識。(赤い部分は花ではありませんが、花が咲くときに一緒に赤くなるので、つぼみがつかなければ、ポインセチアの観賞価値である、あの赤色のホウは色づかないのです。)
再びシンガポール。「何故、シンガポールの街路樹にポインセチアが植えられないのか」結局わかりません。一定の暗黒の時間が必要ということなので、もしかしたら都市で明るいために、必要な「暗闇の時間の確保」ができずにつぼみをつけることができず、植えられることがないのかもしれません。もしくは、限界暗期がじつは11時間30分ではなくて、12時間以上必要で、シンガポールは夜が12時間を越えることはないので、つぼみがつくれないから…のどちらかかな?と思います。
謎は解決しませんが、つぼみの謎がちょっと解けたということでTOM的には、ま、いいか…と。
真相をご存知の方がいたら、教えて下さい。
原産地でのポインセチアに興味がある人はコチラを参照して:
参考資料:つぼみたちの生涯
理科年表1997年版
世界の気象情報に関するホームページ(スゴイ役に立ちます。今回あげた夜の時間は6/22と12/22の昼の時間から出したものです)
長文におつきあい、ありがとうございました。
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コメント
TOMさんこんにちは。
なーるほど!そういうことなのですね。
相変わらず、アカデミックな内容に、ただただ感じ入っています。モナリザに秘められた謎より、うんと面白いわ。身の回りに、ちょっとした疑問を感じたら、それを徹底的に追求することの出来るTOMさんって、すごい!
ブログランキングも、上がるわけです(^^)/
投稿: minori | 2006年6月13日 (火) 11時04分
あーまた賢くなっちゃった。
とちゅう付いていけなくて気を失いかけましたが。
投稿: kusaki | 2006年6月13日 (火) 14時06分
minoriさん
アカデミックと言っていいのか…って感じですが、気になって調べたことを書いておかないと忘れちゃいそうだったので、独りよがりかもしれないけどUPってな感じで。そして結局、結論は出ないんですよー(涙!
)
kusakiさん
ごめんねー。自己満足の回を読んでくださってありがとー。ぜひつぼみたちの生涯をお読みくださいませ。気を失わずにすむようになるよー。
投稿: TOM | 2006年6月13日 (火) 20時04分
こんにちは、通りすがりのものです。
原因は夜の長さではないかと思います。
日長反応は、光合成反応と異なり10ルックス程度
(新聞がやっと読める程度の明るさ)で植物が明期と判断します。
ここで調べられている夜の長さは日没~日出なので、
薄明の時間も夜になってしまっています。実際の
夜の長さはそれより40分~1時間程度短いと思います。
薄明の時間については、
http://www.fb.u-tokai.ac.jp/WWW/hoshi/env/solar-j.html
で調べることができます。
投稿: mume | 2008年4月16日 (水) 05時16分
mumeさん
教えていただいてありがとうございました!要するに想像以上にシンガポールは植物にとっての夜の長さが短いということなんですね。とっても勉強になりました。ありがとうございました!
投稿: TOM | 2008年4月17日 (木) 10時14分