プランテーション界のヒーロー、ウィービル君
「ヤシの実のアジア学」にアブラヤシの花についてちょっと面白い記事が載っていました。
アブラヤシは花粉を風と虫の両方に運んでもらっているんですが、20年ちょっと前までは東南アジアには花粉を運んでくれる虫がいなかったので、風だけにたよると受粉が十分にされず人間が受粉を行っていました。(人が関与することで収量が3割もアップしたのだそうです。)
アブラヤシはアフリカ原産。だから当然花粉を運ぶ虫もアフリカ原産。植物だけを連れてきて虫は置いてきちゃったので、花粉運びをやる子たちがいなかったんだな…。
原産地のアフリカでは色々な虫が花粉運びを手伝っているようですが、アブラヤシ畑に連れてきたのはその中でも有望株のゾウムシ、ウィービル(weevil)君。なんでも200万米ドルものお金をかけてマレーシアのアブラヤシ畑に放したんだとか。1982年のことでした。
それ以前は雄花から花粉を集めて乾かして雌花にかけてやってました。雌花が咲いているかどうかを1本1本の木ごとに調べていると大変なことになってしまうので、園内の全部の株に1本残らずかけてまわる。大体3000haくらいが最適規模のアブラヤシ畑で、これがどんなに大変なことか分かりますよね。
「あ、そーか。虫に運ばせればいいんだー」と気付いたのは、ある意味「コロンブスの卵」みたいなもんで、それ以降花粉かけ作業はなくなった上に収量がアップ。「研究者は貴族を称することを許された」と資料にはありました。
TOMが見たアブラヤシの雄花に群がっていた花粉団子を抱えた虫たちはその仲間なのかな?
それともシンガポールに元々いた昆虫?興味が尽きません。
ココから先はTOMの独り言…。
プランテーション界にとってはウィービル君の登場はいいことずくめのようですが、生態系にとってはどうなんでしょう?あれだけの広大なアブラヤシ畑にウィービル君。もともとの東南アジアの生態系と無関係でいられるはずはありません。
自然界は植物も動物も昆虫も、微生物達さえもお互いに影響を与え合って、それぞれの生きる場所(ニッチ niche )を見つけて暮らしています。その中に新しいものが入ってきても、もともとあったものが消えていっても、バランスは崩れて、思いもかけなかった現象が出てきます。新しい環境に合わせて進化する生物も出てきます。
かつて地球に酸素がほとんどなくて二酸化炭素ばかりがいっぱいだった頃にシアノバクテリアという光合成をする微生物が誕生しました。ありあまる二酸化炭素を利用するのが有利だったからです。
こう考えると、マレーシアとかで、ありあまるほど豊かなアブラヤシを利用する生物が出てくるのは当然の流れですよね。
今、東南アジアのアブラヤシプランテーションは他の商品作物と比べると目立った病虫害は少ないようですが、(それでも農薬は使われています。この話は次の機会に…)これから先も同じと言うわけにはいかないのが自然界の流れの常。
巨大なアブラヤシプランテーションによって新たに発生した環境(アブラヤシ1種類がたくさんある)に対応した生態系はどんなものになるんでしょうか?
もしそれがアブラヤシの生産に逆行するものだった場合、虫や病気を皆殺しにするために大量の農薬を撒くのでしょうか?
アブラヤシプランテーションの脇にわずかに残ったスカウとかの熱帯雨林や、その中を流れる川とかにそれらは流れ込んでどんな影響が出るのでしょうか?先日の旅行で出会ったテングザルもオランウータンもボルネオゾウも汚染された水や木の葉を食べて、どうなってしまうんでしょうか?
やみくもにプランテーション反対を唱えるつもりはないのですが、考えれば考えるほどTOMは寒気を感じてしまいます。土着の自然の動植物たちと共存しながら、持続可能な農業をして、みんなが幸せになる方法はないのかなぁ。
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