カニクイザル
Macaca fascicularis
マクリッチのローニートレイルを8月24日に歩いていたらカニクイザルに出会いました。
カニクイザルはシンガポールで一番よく出会うおサルさんで、ニホンザルの仲間です。顔や全体の印象もよく似ていますが、しっぽがカニクイザルのほうが長いそうです。
マレーヒヨケザルは出会えたらラッキーって感じですが、カニクイザルは好むと好まざるにかかわらず、朝とか夕方にマクリッチにお散歩に行くと、まあ、間違いなく出会います。群れで生活する子たちなので、それこそいっぱい。人間が害を与えることはないと思っているのか、人間を見ても逃げません。それどころか、食べ物を持っていたら、すかさず盗ってやろうと狙ってるので、人間のほうが緊張感を持って歩かないと危険です。小さな子ども相手ならあちらから威嚇してきます。うちの子どもは小さい時は狙われて半泣きになったこともありました。
東南アジアには広く分布するサルで、先日行ったボルネオでもテングザルと一緒にたくさんいました。果実や種子、若い葉、昆虫など何でも食べ、10~20頭の群れで生活し、1日中低い木の茂みで過ごすサルなのだそうです。(1日中木の上でしか過ごさないオランウータンなどとは対照的ですね)
何でカニクイザルって言うんだろう?と思っていましたが、安間氏の本にその答えが…。
カニクイザルには「タコの足のように張り出した気根にこし掛け、長い尾でカニを釣って食べる」という話があるそうです。「確かに川沿いに住んでいるし、よく水辺に下り、カニも食べているようだが、カニをしっぽで釣って食べる場面にはお目にかかったことがないし、あくまでも「お話」であってそんなことはしないと断言できる」と安間氏は書いています。でもこの「お話」を専門家でさえも否定しないと言うのだから笑えます。
話を元に戻します。
先日会った、カニクイザルたちはローニートレイルに座り込み、カリカリと音をさせながら一生懸命に何かを食べていました。道の上を探るようにしながら、何かを拾って食べています。
何だろう?と思って近寄ってみました。
2mmくらいの小さい黒い粒がいっぱい落ちていました。それを1粒1粒拾って食べているのです。ポリポリカリカリ。
確認はできなかったけど、マカランガの実の殻がいっぱい周りに落ちていたので、その実かもしれません。
手元の資料では見つけられなかったけど、前にブキティマのビジターセンターに展示されていたボードにカニクイザルは何でも食べる。実からお花までじつに何十種類もの食べ物を食べていて、森の種子を運ぶのに大きな役割を果たしている。…と書いてあったような記憶があります。
イチジクのように見た目に美味しそうなものを食べているというイメージがあったのですが、こんな小さなものを大事そうに1粒1粒食べている姿を今回見て、その意味を理解したような気がしました。
イメージとしては、部屋中にごまをばら撒いてしまって、でもそれしか食べるものがないので、1粒1粒大切に拾って食べているというイメージ。さぁ、想像してごらん!
「動物園にできること」という本があるのですが、従来型の動物園で飼われている動物の多くはストレスを抱えていて、そのために自然状態では見られない異常な行動をしたりすると書いてありました。シロクマとかが檻の中を行ったり来たりひたすらし続ける姿は私達にはおなじみの風景ですが、あれはストレスによる行動だったんです。そういったストレス解消のためにアメリカの動物園では色々な試みをしていて、その中に餌を1日のうちで決まった時間に必ず与えるのではなく、1日に何回かそれも不規則な形で例えば、展示の中に巧妙に隠して何箇所にも置くとか、今回カニクイザルが食べていたような小さなものを展示の中にばら撒くとか、そんな形で工夫して与えると動物園の動物も餌を探すのに時間や体や頭を使うためか、ストレス行動が減るんだ…と書いてありました。(この表現はものすごく要約した表現なので、鵜呑みにせず、詳しいことを知りたい方は この本を直接読んで正しい情報を持ってくださいね。こういうことしか書いていない本だと思われると困ります。現代の人間必読と言ってもいいんじゃないかと思う良書。)
自然の中で動物達は餌探しに多くの時間を費やします。それがすごく大切です。その過程の中で、多くの種子を遠くに運び、森の生態系が維持されています。
ブキティマには「サルに餌をあげたら1万ドルの罰金」という看板があります。
サルはかわいいのでついつい餌をあげたくなりますが、ぐっと我慢。
かつてシンガポール植物園にもサルがいましたが、人間が餌をやっているうちに、こんどは人間を襲って餌を取るようになったので、駆除されたという歴史もあります。餌をあげるのは人間のワガママです。被害を受けるのは森とサルたち。忘れないでね!
左の写真はまだよちよち歩きの赤ちゃん。お兄ちゃんたちの後についていこうとお母さんから離れてヨタヨタしてるところ。この直後にお母さんに叱られて連れ戻されました。(笑)
ローニートレイルで見たサル達。何であんなところであんなことをやっていたんだろうと家に帰ってから思い起こしてみました。
トレイルの上から直接落ちてきた黒い粒もたしかにあったようですが、森の中から持ってきたらしいちょっと腐葉土化したような葉っぱの固まりみたいなのを振って、そこから黒い粒々を落として食べているように見えたからです。
もしかしたら森の中は落ち葉がいっぱいあって、黒い粒々は森の中では見つけ難いのかもしれません。トレイルのように土だけど舗装されたように固まった上だと、黒い粒々は私達人間でもすぐに見つけられます。見つけやすくて食べやすいから、森の中からわざわざ引っ張り出していたのかも…と思い到ったら、サルの賢さに感心してしまいました。
Common name: Long-tailed Macaque 、カニクイザル 、オナガザル
原産地: ミャンマー~タイ、フィリピン、スマトラ、ジャワ、バリ周辺の島々
参考資料:「ボルネオ島 アニマル・ウォッチングガイド」 安間繁樹 文一総合出版 P112
「動物園にできること」川端裕人 P88
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コメント
私もこのサル見たことあります。
このサルを初めて見たのはブキティマ山です。(学校での遠足?で自然友の会で案内してもらった時)
初めて見たこっちの野生の哺乳類なので思わず近づいてじっくり見ちゃいました。かわい~と思っていたら女の子のバックがサルに盗られかけたのでそれからは慎重に行動しました・・・。
怖いと思ってましたが、ちっちゃな粒を大切に食べて暮らしてるサル達にお弁当の匂いが漂ってるバックは盗りたくてしょうがないでしょうね。
盗まれても罰金になるんですかね。
投稿: 新井 暁子 | 2006年8月26日 (土) 17時31分
ご無沙汰しております。
マレーシアにもカニクイ猿は至る所におり、時々人を襲ったりもします。地元紙では時々子供が襲われたという記事が載っております。
また、日本の薬学部や医学部で動物実験に使用する猿は皆カニクイ猿だそうです。
私の友人(薬学部卒業)がマレーシアに遊びに来た際、カニクイ猿を見て「なつかし~い!」と言っておりました。
いつもながら専門的な解説に感銘しております。これからも楽しみにしております。
投稿: HOJO | 2006年8月27日 (日) 10時18分
新井さん
盗まれた場合…どうなんでしょう?アッパーピアスではサルに餌をあげている人に公園の監視員が注意をしているところを何回か見ました。切符を切っているようでもないし、あんまり実際には罰金を科されることは無いかもしれないですね。
投稿: TOM | 2006年8月28日 (月) 20時34分